明日をへぐる ドキュメンタリー映画 監督 今井友樹 シグロ作品

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監督コラム「記録は未来のためにある?」前半

『明日をへぐる』の公開を記念して、今井監督の劇場用映画デビュー作である『鳥の道を越えて』がポレポレ東中野にて絶賛上映中です。当時どのような思いを抱えて撮影に取り組んでいたのか、そしてそれは新作にどのような影響を与えているのか。このコラムで監督の葛藤と、問いをやめないという覚悟が見えてきました。

『鳥の道を越えて』が7年ぶりにリバイバル上映された。この映画は、祖父が語った渡鳥の大群の話を手がかりにたくさんの謎を解いていく旅のドキュメンタリーだ。

『鳥の道を越えて』の制作中、民映研(民族映像研究所)所長の姫田忠義さんを含む大切な恩人を相次いで亡くした。なんとしても映画監督にならなければと、我欲が先立っていた自分が虚しくなってしまい、映画を作ることを辞めたくなってしまったのだ。

そんな時、自分の心を奮い立たせることができたのは、子供の頃に体験した、お祭りや地域の暮らしの記憶だった。その記憶は僕の冷え切った体を温めてくれた。民俗の映像記録を自分の生業として、続けていく決心もこの時期についた。

民俗の映像記録について、生前に姫田さんは「記録は未来のためにある」とよく言っていた。僕自身も標語のようにこの言葉を疑わず記録を続けていた。でも各地で映像記録をする度に、映像記録は、本当に未来の役に立つのだろうかと疑問が湧いてきてしまった。

やがて消えゆくであろう行く末が想像できてしまうのだ。記録に何の意味があるのだろうか?誰も見向きもしない結果に、自己満足で記録しているだけではないのか?次第に記録することの大義すらわからなくなってしまっていた。

映像記録に疑問を感じ続ける最中、僕は高知県いの町で和紙の原料・楮を守り育てる山里の暮らしを記録することとなった。2019年の秋、僕が初めて高知県いの町吾北地区を訪ねたとき、目の当たりにした現実は深刻なものであった。

楮農家の多くが、90代の人たちであり、毎年一軒また一軒と楮農家がいなくなっている現実が目の前にあった。今にも消えてなくなってしまいそうな現状を「なんとか記録して欲しい」という地元の方からの要望で、ドキュメンタリー映画『明日をへぐる』の制作がはじまったー。

(後半へ続く)

『鳥の道を越えて』
2014年/93分/ドキュメンタリー
上映:9月10日まで
時間:各日16:40~
★最終日には監督の舞台挨拶を開催!

『明日をへぐる』
2021年/73分/ドキュメンタリー
上映:9月11日~終了日未定
時間:各日10:00~、14:40~
★1回目の上映終了後に監督とゲストによる舞台挨拶を毎日開催!

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