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2021年7月22日 音声ガイド体験ワークショップ レポート

4連休の初日、【あなたもモニターとして映画に関わってみませんか?】と題し、視覚障害のある方を対象にしたワークショップを開催しました。
(感染症対策のため、当初の予定より定員を減らしての実施となりました。)

パラブラでは作品ごとに監督と視覚障害がある方々をお呼びして【モニター検討会】を実施しています。「映画のモニター会ってどんなことをしているの?」「何か特別な知識や技術が必要?」そんな疑問の多いパラブラのモニター会を体験したいという方々に集まっていただきました!

パラブラの会議室で画面に向かっているみなさん

ゲスト講師に映画プロデューサーの山上徹二郎さん、さらに新作「明日をへぐる」の公開を9月に控える今井友樹監督をお招きして、プロが考える映画の在り方や、音声ガイドの今後のことなど凝縮した濃いお話をたっぷりお聞きしました。

モニター会は映画への新しい気づきがあったり、新たな自分に出会えたりと発見の場でもあると伺っています。今回は、パラブラ新人スタッフの私が、その裏側をレポートしたいと思います!

【前半】 音声ガイド体験

まず映画「蝶の眠り」のワンシーンを音声ガイドなしで鑑賞しました。
会話が中心のシーンでは、音声ガイドがなくとも話は大体追えますが
今作の場合、

・サインを求められた主人公はどこに書いたのか。紙?ノート?
・この足音は誰のもので、どこを歩いているのか。外?室内?階段?
・どんな服を着ているのか。(映画の内容に関係があれば、服装の説明が入ります。)

続いて音声ガイド付きで観ると、これらの細部の情報を知ることができストーリーを見失わずに鑑賞ができました。

それぞれの鑑賞法

感想を伺う中で、視覚障害が先天的か中途であるかで理解度や捉え方に違いがあるとわかりました。先天盲の方の場合はわずかな物音や役者の息使いなどから、考えられる展開のパターンをいくつか想像して消去法でストーリーを追っているように感じ、そこまでわかるのか!と純粋に驚きました。だからこそモニター会では各々の立場から率直な意見が出ることこそが重要なのです。

映画の在り方

「蝶の眠り」だけでなく多くの作品を手掛けてきた映画プロデューサーの山上さんは、日頃からモニター会に参加されていますが、そのスタンスについて意外なお話が聞けました。

「映画の受け取り方は製作側の意図するところと全然違っても構わないと思ってる。(中略)映画って時が経つと違う見え方をしてくるんだよね。それは観客だって、製作者だって同じで。映画は観た人の頭の中で完成する。なのでこだわらないようにしてる。」

明らかな事実関係の間違いなどがない限りは、あまりこだわりはないそうです。「観た人の頭の中で完成する。」本当にその通りだなと、映画の偉大さを再確認しました。

【後半】 映画「明日をへぐる」でモニター会を再現

今度は実際のモニター会同様に、初稿の音声ガイドを聴きながら鑑賞。どう感じたか?理解できたか?など感想や意見を聞いていきます。

モニター体験のお二人の背中ごしの画面

「明日をへぐる」は土佐和紙の原料である楮(こうぞ)をめぐる人々の暮らしと、和紙文化を見つめなおすドキュメンタリー映画。楮の繊維から和紙を作る工程の一部分を鑑賞したのですが、なかなか難しく…。実際のモニター会でも「そこは聞き飛ばした」となるほど専門用語が飛び交うシーン。「職人作業ということはわかったのですが、追いきれませんでした。」と参加者。

このあと完成版の音声ガイドで鑑賞し、1つ1つ変更点をさらっていきました。

「(初稿と比べ)用語や手順の伝え方がわかりやすくなったと思います。」

場面写真【大きなクシのような木製の器具】
『明日をへぐる』場面写真© 2021 SIGLO / Palabra

例えば【木の棒が等間隔に並んだ器具】より、
【大きなクシのような木製の器具】の方がイメージは付きやすいですよね。

「晴眼者もざっくり自分のわかる行動に関して言語化はしてないわけですよね。目で見て何となく追えている気がするだけで。それを言葉だけでイメージに結び付かせるのは案外大変なんです。」と制作者。

映画製作側の意図

今井監督「この映画は仁淀川の河口部から始まるんですが、初稿の時には河口部分とそこに架かる橋の説明だけが成されていました。ですが実はその奥に連なる四国山地も見せているので、そこも音声ガイドで説明してほしいという注文を(モニター会の際に)しました。」

場面写真
『明日をへぐる』場面写真© 2021 SIGLO / Palabra

そして変更したガイドが
「上空から見た河口部、手前が海、奥に四国山地。流れる川に大きな橋が架かっている。」

仁淀川の源流域である山地帯がまさに楮が育つ場所。そこに暮らし、楮を栽培する人々を描いているため、山地の説明は必須だったのですね。このような意図も監督がモニター会に立ち会うことで漏らさずガイドに反映できます。

これからの音声ガイドについて・・・

山上さん
中期的な目で見たら、今バリアフリー版と呼んでいるものが通常版になるんじゃないかなと。自分が業界に入った頃、字幕は絵を汚すと嫌がられていたけど、いつの間にかそれは普通のことになった。だから変わっていくと思う。合成音声も進むだろうけど、それは多様な映画の形の一つとして。人間の声も残り、選択肢が増えるということになると思う。

今井監督
映画を作り終えると一息つく間もなく、音声ガイドの制作が始まり、でもその間作品を客観視できる時間もある。作り手の方も毎回毎回勉強になるし、映画自身も自問自答が続いていくはず。音声ガイドもそういう意味で時を経て気づきがあるかも。生き物的な感覚で面白いです。

参加者の感想

・「(モニターを)やりたいやりたいと思っていたけどなかなか難しそうだな・・・と。でもほんとに率直な意見言えばいいんだよなと思ったらやっぱりやってみたいかな!(モニターをすることで)出来上がりを観に行くっていう楽しみもありますね。」


・「(製作側の話を聞いて)映画館に行って映画を観なきゃいけないなと反省しました(笑)」
・「音声ガイドは、映画を観た後のコミュニケーションのきっかけにもなるんだなと思いました。」

体験会終了後の集合写真

ワークショップを終えて

音声ガイドがあることで観客の視線を誘導できたり、特に今回取り扱ったようなドキュメンタリー作品の場合、何となく見ている物の名前を知ることができたり・・・つまり音声ガイドは晴眼者にとっての「観る」ためのガイドにもなるという新たな発見がありました。

目的によって「音声ガイド付きで映画を、ドキュメンタリーを観る」という選択が日常になれば映画と音声ガイド、双方の可能性がもっと予測のできない方へ向かっていくのだろうな~と想像が膨らみ、ワクワクの詰まったワークショップでした。

ご参加、ご協力いただいた皆さまありがとうございました!

またの開催をお楽しみに!


映画「明日をへぐる」

https://palabra-i.co.jp/asuwoheguru/

9月11日(土)よりポレポレ東中野にて公開

UDCastによる音声ガイド付き

通常版:日本語字幕付き

(いつ行っても日本語字幕付き上映をご覧いただけます)

ポレポレ東中野https://pole2.co.jp/
JR東中野駅西口より徒歩1分 都営大江戸線A1出口より徒歩1分

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